ハイパフォーマンスの新型V6
新型Zに注ぎ込まれたエポックの中でも、ファンを驚かせたのは300ZXに搭載された最高出力230P Sというパワーだった。数値的に最もパワフルだったS130系に搭載されたECCS仕様のL28Eの最高出力が155馬力、L20Eターボでも145馬力だった事を思えばその上昇ぶりがどれほどセンセーショナルだったかは想像に難くない。同時期にデビューしたサバンナRX7のターボモデルの最高出力が165PSだった事を見ても、数値的なインパクトは相当なものだった。
ターボを装着された新世代V6は、すでに2リッター、3リッターとも83年6月にデビ
ューしたY30型セドリック&グロリアに搭載されていたが、VG30+ターボはZが初めて採用となる。Z31デビュー後でしばらく、Zにノンターボモデルが無くなることになった。
挟み角60度のV型6気筒VG型には、様々なメリットと技術が注がれている。まず、高
回転での出力を得やすいオーバースクエア(ボア×ストローク(mm)はVG20ET78.0×69.7、VG30ETが87.0×83)のレイアウトをとりビッグボア化がはかられている。また、エンジン全長がストレート6に比べて短縮化されたこともあり、フロントアクスルよりも後ろ側に大部分を搭載する事が可能となった。慣性モーメントの低減と言う点からもメリットは大きい。
メリットは他にもある。短縮化されたエンジン全長はクランクシャフト短縮化にもつながりクランクシャフトそのもののねじり剛性を高めることになる。また、ピスト
ン、コンロッドなどのムービングパーツの軽量化も図られた。ランクケースに対してクランクシャフトを支持するベアリング数を4つとL型に比べて省略する事も可能になり、フリクションロスの低減に大きく貢献している。
また、60度Vの特徴として片側3気筒が120度づつのクランク回転で等間爆発するため、トルク変動の少ないスムーズな回転を身上としている。このためフライホイールの軽量化も可能になりレスポンス重視のエンジンとなっているのだ。
こうした設計思想がターボ車特有のターボラグを最小限にくい止め、ナチュラルかつパワフルなエンジンフィールを引き出す結果になることは言うまでもない。
また、ターボエンジンの宿命でもある低圧縮比が生む過給圧の低い低回転でのドライバビリティーの鈍さを補う回答はほかにも用意されていた。エンジン電子集中制御(ECCS)が点火時期、燃料噴射量、そしてEGR量のコントロールし、回転域による綿密なマネージメントがなされることになった。
そして、エンジン中央に冷却水経路を設け左右のバンク、各シリンダーの冷却面で均等化させることで、各シリンダーごとに熱的に安定した状態となり、圧縮比をそれほど低下させなくても熱問題をクリアする事を可能にした。これにより低速域でのレスポンス、そして中速域への過渡特性が向上したことは言うまでもない。
VGの特徴でもあるオーバースクエアのボア×ストローク。ショートストロークとすることで高回転域で有利、と解釈されるのが一般的だ。しかし、インテークマニホールドの形状や長さなどで、低回転でも吸気流速を高く保つために「吸気慣性」を使うなどしてシリンダーへの充填効果を高め、低中速域でもリニアなエンジン特性を生み出している。
また、吸入経路にあって流入空気量をモニターするエアフローメーターに従来のバタフライ式から、より吸入抵抗の少ないホットワイヤー式を採用。このホットワイヤー式の原理は、吸入経路に電流を通して熱化した白金のワイヤーを通し、経路を通過する空気の流速や量でワイヤーが冷却され、ワイヤーの電気抵抗値が変化。それをECCSが演算して燃料噴射率を決める、というものだ。
こうしてみると、一部ではなく各部の集合体としてスポーツユニットとしても非常に資質の高いエンジンであることが良く解る。