Footwork

仮想敵はヨーロピアンスポーツ

Z31が登場した83年。当時のスポーツカーシーンの進化は目を見張るものがあった。特に海外のマーケットでライバルとなるスポーツカー達も軒並みポテンシャルを上げていた事を記憶するファンは少なくないのではないだろうか。エンジンマネージメントのエレクトロニクス化はさらに洗練され、高性能エンジンの代名詞だったDO0HCや4バルブなどのマルチバルブの普及も進む。そして高回転を許容するようになったエンジンが生み出す高出力。それに伴うシャーシ面の進化。タイヤの高性能化も忘れられない。
もちろん、そうした進化の過程で生まれるスポーツカーは、もはや加速力と最高速 度、という絶対性能の尺度だけでは測れないほど高機能化していた。そしてスポーツ カーの命題として高出力エンジンで可能になる高速走行域でのスタビリティーの追求 、そして、楽しめるハンドリングとの具現化、という二律背反のテーマを高次元にまとめあげるための手法が投入されていた。

サスペンション
Zのシャーシも、最高速度250km/hという超高速域でのスタビリティーをテーマに開 発をされている。そして、完成したZ31のサスペンションは「スーパーキャパシティーサスペンション」と呼ばれ、高い性能が与えられていた。サスペンションレイアウトそのものは、前・ストラット、後・セミトレーリングアームの4輪独立懸架方式とS130系から踏襲したことになる。しかし、そのコンセプトをつぶさにみると、サスペンションへの思想が伝わってくるのだ。
フロントサスペンションに採用された7度というハイキャスター、そしてフロントのキングピンをオフセットする事でつめられた16mmというキャスタートレール。これによりコーナリング時の前輪外側の垂直接地性が大きく向上し、シャープなハンドリングと高い限界性が確保された。また、そうした運動性とともに安定性も十分に備わっているのが特徴だ。スクラブ半径も15mmと小さくすることで外乱によって発生する耐シミー性も大きく向上されたこともつけ加えておきたい。
また、サスペンションにはアンチダイブジオメトリーも与えられ、ブレーキング時におこるノーズダイブによる過大な荷重移動を防ぐ役割も見逃せない。

そうしたフロント周りと共に、開発陣がスーパーキャパシティーと呼ぶに相応しいシャーシをZに与えるにあたって特に重視したのがリアサスペンションの熟成だった。
最初のポイントはサスペンションアームがサブフレームに取り付けられる回転軸の中心を結んだ線と、車体センターとの角度(後退角・スイーブバック角という)を、従来の23.4度からの18度へと大幅に変更し、フルトレーリングアーム的な性格を与えた点だ。そして、アームの下反角を0.7度、初期キャンバーを-1度10分とネガティブ キャンバーをつけている。これらの狙いは、コーナリング時、車体がロールすると安定成分をより生み出しやすいアライメントを採用している。

また、セミトレーリングアーム方式のリアサスペンションの場合、レイアウトの構造上、コーナリング時の後輪に加わる力が、後輪をコーナーの外側に向けようとする応力として作用することになる。ここでサスペンション取り付け部にあるラバー製のマウントブッシュやサスペンションアームそのものの剛性が低いと、このコーナリングフォースにより弾性変形による後輪の角度変化が生じることになるわけだ。
コンプライアンスステアと呼ばれるこの現象や、高速域になればなるほど、歓迎すべき現象ではない。それだけに、Z31が採用したスイーブバック角やマウントブッシュ、サスペンションアームの剛性バランスを最適化は、コンプライアンスステアの発生をほぼゼロに押さえることに貢献しているのだ。結果的に高速域でのレーンチェンジや直進安定性の向上は計り知れないものになった。
こうした基礎的なアライメントへのアプローチの他、ハード、ミディアム、ソフトの減衰圧を3段階に調整可能な、3ウエイアジャスタブルショックアブソーバーの採用などもあり、高速安定性、スラーローム性能というどちらもスポーツカーとして欠かせないポテンシャルを手にしたことになるのだ。

200ZG、300ZXには215/60R-16というロープロファイルタイヤが6.5インチリムとともに採用された。また、ホイールのクリップボルトの数が200シリーズは4本、300シリーズは5本となっていたのも、マニアの間ではボンネットフードの上のパワーバルジと共に格好の識別点となっていた。
他にもエポックがあるので紹介しておきたい。まず、8インチタンデムブレーキブースターを採用したブレーキである。これにより軽い踏力で4輪ディスクがもつ確実な制動力を発揮する設計となった。トップモデルの300ZXには、フロントφ274mm、リアφ290mmという大径プレートが与えられ、ストッピングパワーの拡充も図られている。
Z31トランスミッション
また、2000シリーズのATトランスミッションに採用された新型OD付4速ATミッショ ンは、全段でロックアップ機能を持ち、シフトスケジュールをコンピューターが管理 する新世代のミッションを搭載している。

FAIRLADY