





「一度仕事が始まると、終わるまで食べ物が喉を通らないんです。よく現場の仲間からも、お昼くらい食べなよと言われるのですが……休憩して気が抜けてしまうのがどうしても嫌で」


「この仕事を始めて二年目のことでした。初めてコーキング(※1)を打たせてもらったお客様に『これはプロの仕事じゃないね』と言われたことがあります。今思うと、仕事が下手なことが問題とされていたわけではなかった。ただプロとして、その仕事で(納品をしても)いいだろうと思っていた考え方が、致命的にダメだったんです」
(※1)コーキング……建築物において気密や防水を高めるため、隙間を目地材などで充填する作業


「仕事ぶりを見ていただいている人からは、よく天職だねと言われますが、正直、自分で向いていると思ったことは一度もありません。ただ、向いていないからこそ『いいね』と言ってもらえるように努力してきたし、負けるもんかと思ってここまでやってこれたような気がします」



「今だって、辞めたいと思うのが日常ですよ。どんなにキャリアを積んでも、寸法を間違えて切ってしまうとか、簡単なミスで商品をダメにしてしまうこともあります。そんなときは、恥ずかしいやら申し訳ないやらで、また同じことをするんじゃないかと考え始めると、その日一日、道具を触るのが怖くなるほどです」

「よく失敗も経験のうちと言いますが、大切なのはそれを隠したり、誤魔化したりしないことではないでしょうか。誰にもバレないだろうという発想は、自分に嘘をついていることにもなるし、そもそも、自分が手がけたお風呂場やキッチンを何十年も使っていくお客様の目を欺くことは絶対にできないんです」


「作業の終わりに、お客様に仕上がりを見てもらうんです。そんなとき、僕はいつも『どうです?イメージ通りですか?』と訊ねます。そのときお客様からの『うん、すごくいいね!』という一言がもらえる瞬間だけを想像して、僕は仕事をしているような気がします」


「旅先で、とあるビジネスホテルに泊まったことがあります。仕事がら、どうしてもお風呂場があるとその仕上がりを見てしまうのですが、当時の私は、それが下手だったとき、なんだ、自分より下手な奴がいるじゃないかとホッとしていたんです。でも、そのホテルのお風呂場は違いました。とにかく仕事が完璧で、その美しい仕上がりに驚きが止まりませんでした。そのとき思ったんです。世の中には、誰にも気づかれないようなところで完璧な仕事をしている人がいるんだって。これこそがプロなんだと思いました。それからは自分も、いつかはそんな仕事ができる日を目指しているんです」




1967年02月13日
(熊本県荒尾市)
職種:住宅設備機器施工士
職歴:28年
会社名:イケミズユニットサービス