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顧客それぞれの椅子への愛着をプロの技術で守り抜く
それぞれの思い出が詰まった椅子
それぞれの思い出が詰まった椅子
 東京都荒川区。細い路地に古い街並が軒を連ねるこの場所から、杉並区の納品先へと車を走らせるのは、椅子の修復・製造を手がける職人、中野優治だ。今回仕上げたのは、チーク材で出来た年代ものの椅子。椅子の高さの調整や座面の張り替えを担当した。
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「椅子の高さは、座る人に合わせてミリ単位で合わせます。座面は固いものから柔らかめなど、好みが反映される感覚的なもの。意に沿うように試行錯誤を続けます」と中野は話す。
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 中野が代表を務める㈲インテリア・ユウは創業50年以上の老舗だ。先代の父が興した会社を中野が引き継いだ。父亡き後は、弟、息子とともに会社を切り盛りしている。主な仕事は、皮や布製のシートをカッティングし、縫製し、椅子(ソファ)の中にウレタン材などを入れ、きれいに覆って止めるというものである。
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「父は世界的な著名人の椅子なども手がけた腕の良い職人でした。その技術が認められ、今でも個人宅の応接間のソファやダイニングチェアーのみならず、伝統ある文化施設のラウンジソファーなど、椅子に関する様々な依頼があります」
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千差万別の注文に応える
千差万別の注文に応える
 納品先に着くと、中野自ら仕上げた椅子を丁寧に運び入れる。依頼主は50代の女性。椅子のほかにも、祖父の代から愛用している栗の木のテーブルの修復を過去に依頼したことがあるという。今回の椅子も、その出来上がりを見るや「グラグラしていた脚や痛んでいた座面がきれいに直りました」と感嘆の声を上げた。
 帰りの車で、安堵した様子で中野は言う。「椅子それぞれに、『両親の時代から使い込んできた』『この椅子で育ってきた』など、依頼主それぞれの愛着がこもっています。だからこそ、その気持ちを守るように、シートの張り方や縫い目の隅々まで注意を払って仕上げるのがモットーです」
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 中野が請け負う椅子の仕事は、私達の身近な生活の中にも活かされている。ファミリーレストランやカラオケボックスなどに備え付けられたソファ、インターネットカフェのフラット席なども手がけているのだ。
「業務用の発注では、工事前の図面の段階で寸法を測り、そこにぴったりと合うソファを作らなければなりません。備え付けのものが多く、作業は人気のない深夜帯に行うことになります。荷室にウレタンやシートをたくさん乗せて、幾晩も通いつめるため、必然的に車内で過ごすことが多くなりますね」
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実直に守る「手作り」の良さ
実直に守る「手作り」の良さ
 椅子製造に特化した業界で生きる中野。手作りの良さや職人の技を求める顧客がいる一方、海外産のローコストの椅子を「使い捨てる」時代でもあることを感じている。
「ネットで安い椅子が簡単に手に入る時代ですから、椅子製造の業界は、確かに縮小傾向ではあります。それでも、手にかけた椅子を自分でお客様に届けるような対面の商売は大切にしていきたい。大量販売を目指して会社を大きくするのではなく、これからもひとり一人のお客様に向き合う仕事をしていくべきだと思っています。息子には、『椅子職人はこれからも、決して食いっぱぐれない仕事だぞ』と話していますよ」
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椅子職人の中野にとって、プロフェッショナルとは――。

 「納期を守り、お客様に納得してもらえるのが第一。その上で、どこまでお客様にプラスアルファの喜びを与えられるか。座面を張り替えて目立つようになった木部の傷を、さりげなくそっと補修してあげられる心遣いがプロとしての態度だと思います」
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1963年7月1日
(東京都荒川区)

職種:椅子製造業

職歴:36年

会社名:㈲インテリア・ユウ

顧客によっては複数の家具を荷室に積載しなければならないため、出来る限り余計なものを置かず、繊細な椅子や家具などを傷めない配慮として、荷室の床面に自作のレザーシートを備え付けている。