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「究極のカーオーディオをスカイラインへ」 BOSEサウンドシステム 桑島 康二

「目標としているのはライブミュージック、生の音を忠実に再現することです」

スカイラインのオプションのひとつ、BOSEサウンドシステム。
ボーズ・オートモーティブ株式会社 技術部の桑島康二氏は、スカイラインのBOSEサウンドシステムにも貫かれた、同社の“哲学”をそう表現する。
その哲学は相対的な優位性ではなく、絶対的な質を突き詰める。

弊社(ボーズ・オートモーティブ株式会社)は、カーオーディオに特化したメーカーであることが特徴で、車内での音を徹底して追求しています。
目標としているのはライブミュージック、生の音を忠実に再現することです。
そして、全域にわたる自然な音、“ミュージシャンが出したい音を出す”ことを目指しています。

入社から18年。
カーオーディオ一筋に打ち込み、社内でも最高の「耳」を持つひとりとされる桑島康二氏。
今回のプロジェクトにあたって、彼が率いるエンジニア達に課せられたのは、長い歴史をもつ「2チャンネル」による、究極のカーオーディオをスカイラインで構築することだった。
そこには会社の枠を超えた情熱があった。
BOSEはいかなる音づくりを目指しているのか。
その哲学から、桑島氏は語り始めた。

ボーズ・オートモーティブ株式会社 技術部の桑島康二氏

私たちは他製品とのスペックを比較して、開発を行うことはしません。
生みの親であるDr.Boseは、他社の製品とスペックを比べて、優れている、優れていないという判断をするのはBOSEのポリシーではないという考えを持っています。
スペックの比較よりもいかに生の音を忠実に再現できるかに重きをおいています。
ですからまずは聴いてご判断くださいというスタンスが創業当時から変わらない姿勢です。

BOSEが世界中で高い評価を得ているのは、こうした原音再生へのこだわりが徹底され、開発姿勢や目標といった次元を超えて“哲学”と言えるまでに昇華しているからだろう。

スカイラインの開発においてカーオーディオを担当した北米日産のトーマス・クラハン。
彼が掲げたのは「Studio on Wheels Requirements~クルマの中をスタジオに~」という目標。
家とは異なり、「動きがあり、さまざまな騒音に囲まれた環境である」クルマにおいて実現するのが難しいことは容易に想像できる。

ホームオーディオの場合は聴き手がスピーカーを設置し、最もよい場所に座って音を聴くのが一般的です。

これは普通スイートスポットと呼んでいるものです。
クルマの場合は、スピーカー配置が必ずリスナーに対して左右非対称になります。
ステレオイメージ、音の聞こえてくる方向、ステージの広がり方など、どれだけ左右対称に聞こえるかが課題になります。

こうした課題を克服するのはもちろん、究極のカーオーディオをスカイラインで実現するためには、車体設計側との協力が必要だった。
なぜなら巨大なスピーカーを装備することで、スペースだけでなく衝突安全性や軽量化も考慮しなければならないからだ。
様々な条件をクリアする必要があるにもかかわらず、日産からの具体的な要求である、「低音の迫力を担う10インチ(25cm)のウーファー(低音域スピーカー)、中高音域を鮮やかに再現するツイーター(高音域用スピーカー)、そしてスコーカー(中音域用スピーカー)を持つこと」は実現困難とも思えるものだった。
なぜなら「低域を高レベルにあげ」かつ「あくまでナチュラルに」かつ「レスポンスもよく」という従来の純正カーオーディオでは考えられないシステムであったからだ。

このプロジェクトの要求レベルは非常に高かったですね。
今までにない最高の音を! ということで我々に何ができるかをまず考えました。
ただし、最高級の部品を使えそうでしたし、不安よりも期待の方が大きかったですね。

その要求レベルに答えるための一例を桑島氏は挙げる。

スカイラインでは25cmウーファーに代表されるように、大きなスピーカーを採用しています。
それらが振動すると、回りの部品も振動してしまうので、不要なノイズを徹底的に排除し、周囲を入念に補強しました。
また、従来の半分以下の大幅な軽量化を実現しました。

衝突安全性の向上や軽量化など、新型車開発を取り巻く状況を考えると、カーオーディオの開発に与えられる条件は、決して簡単なものではない。
考え得る最高のカーオーディオ。
その実現までには、情熱をぶつけ合う開発過程があった。
BOSEサウンドシステム完成に向けて、2003年の夏にかけて開発がスタートした。

まず、V35スカイラインを使い、我々からの提案としてコンセプトカーを作りました。
最初のコンセプトカーができあがり、部品を交換してはチューニングという繰り返し。
この作業は1年に及びました。
その間、我々がこうしたいという意図を日産の車体設計側と数多くすり合わせも行いました。

翌秋、BOSEと日産との間で第一段階の合意は得られたが、もう1年、開発と並行したすり合わせが続く。

当初の位置からスピーカーの取り付け位置を移動してほしい、という要望なども入るため、そうした最後の詰めやオーダーに対応しました。
また、コンセプトカーの時点よりも車体側の新しい部品ができるため、最終部品でも同じ性能を発揮できるかという課題もクリアしなくてはなりません。

桑島氏が開発を始めてから2年以上が経った頃、スカイラインの試作車での開発がスタートする。
しかし開発フェーズがコンセプトカーから試作車に移っても、従来のカーオーディオにはなかった、入念な開発が繰り広げられたのだ。

通常2、3回チューニングを行えば充分ですが、スカイラインは5回、6回と時間を費やしました。
究極のステレオ・オーディオを作ろうという目標があり、非常に細かい部分にまでこだわったためです。

トーマス・クラハンが掲げた「Studio on Wheels Requirements」という命題。
通常よりもはるかに時間をかけたチューニングの場における彼との作業は、18年目を迎えるBOSEきってのエンジニアにとっても新鮮だったようだ。

トーマスさんとのコメントのやりとりが印象的でした。
普通は“この周波数帯が強い方がいい”、“クリアに聞こえたほうがいい”という具体的なオーダーが多いのです。
しかし彼は、ゴスペル系のグループで自ら歌うだけに、“ボーカリストが声を張り上げたときの喉の太さが感じられない”、“ハーモニカのこのパッセージの時は、もっとほほが膨らんでいるはずだ”と抽象的なものでした。

一般的には具体的に数値などで示してくれたほうが楽に思えるのだが。
桑島氏は、このリクエストをいかにクリアしていったのか。

音をどうやって物理現象に置き換え、どう直すのかといった、翻訳作業になったわけです。
我々がつかみきれない場合でもトーマスさんに聴いてもらうと“それではダメだ”、あるいは“すごくよくなった”という返事が来るわけです。
そうしていくうちに、我々エンジニア達も数値だけでは測りきれない感覚的な聴力も高められてきました(笑)。

結果としてトーマスとのやりとりは、“アーティストが表現したい音を再現する”というボーズ社の哲学にも通じるものがあり、その作業は困難なだけではなく、チャレンジングで楽しいものであったようだ。
そしてそのこだわりは尽きない。

細かい部分へのこだわりの一例を挙げますと、スコットランドのある打楽器を叩いて5秒後くらいの振動が、コンセプトカーでは出るけど試作車では出ないということがありました。
周波数域を調べると、カーディオではあり得なかった15ヘルツだったわけです。
これがクルマで再現できているのは、我々としても驚異的でした。

こうした過程を経て生まれたオーディオシステム。
そして桑島氏は、BOSEの「原音再生」の哲学が、実現した瞬間のことを話してくれた。

最終チューニングの後、ニューヨークのレコーディングスタジオで行われたプレス向けイベントの時に、自分の作ったCDを持ってきたレコーディングエンジニアがいました。
実際に作曲だけでなくレコーディングを含め、すべての工程に関わった自分の音楽。
彼がスカイラインのサウンドシステムを試すと、“これは紛れもなくボクの作った音だ!”というお墨付きをいただきました。
その意味では、“アーティストが出したい音を再現する”という哲学を貫けたと思います。

トーマス・クラハンとのやりとりが、桑島氏にとって印象的だったのは先述のとおり。
最後に、もっとも印象的だったというエピソードで締めくくってくれた。

トーマスさんはボーカル、我々のメンバーの1人はドラムをやっていて、私はギターが好きということもあって、車内に入り、それぞれのパートの音を確認したんですよ。
最後の詰めの段階でトーマスさんが、“私はOKだが、君(ギター)は大丈夫か?”、“君(ドラム)は大丈夫か?”と確認した瞬間が、強く印象に残っています。
全員がうなずくと車内からトーマスさんが降りてきて、“よし、みんなが問題なければ、OKだ!”と。

このワンシーンが、桑島氏は忘れられないと言う。
トーマス・クラハンがクルマから降りて口を開いた瞬間。
その瞬間こそが、BOSEサウンドシステム誕生の時だったのかもしれない。

<BOSEとは>
1964年の設立の米国ボストンにある総合音響メーカー。
「機器ではなく、美しい音楽の提供者でありたい」というDr.Boseの思想が原点。
企業というより技術集団を自負し、設立以来一度も株式配当を行わず、利益の全てを研究開発費に投資して常に新理論の開発、改良に力を注ぎ、世界最高峰の音響機器メーカーとしての評価を得ている。

※この記事は、SKYLINE BLOGで2008年2月21日に掲載されたものを編集しています。