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「相反する4つの性能を同時に向上させた」 ガソリンエンジン開発 池田 伸

「スカイラインは日産を代表する一台であるとともに、世代を超えてファンの人が多いクルマですから」

2007年10月にフルモデルチェンジを行なったスカイライン クーペ。
その目玉のひとつとなったのが、新開発となるVQ37VHRエンジンの搭載だった。
この新開発エンジンに関して、当初から決定されていた事項はひとつだけ。
それは“新型のスカイライン クーペに搭載される”ということだけである。
冒頭の台詞はVQ37VHRエンジンの開発を担当した、池田伸にその理由を訊いた時に返ってきたものである。

VVEL搭載VQ37VHRエンジン

VQ37VHRエンジンの開発が本格化した頃、池田は開発担当者の1人に名を連ねた。
ここで目玉となる日産独自の新技術がVVEL(ブイベル)だった。
これはアクセル開度やエンジン回転数など、運転状況に応じてエンジン吸気バルブの作動角とリフト量を連続的に可変させるという仕組み。
本来のパフォーマンスを、状況に応じてより最適かつ効率よく引き出すことで、エンジン性能をアップしようというものだ。
当時を池田は振り返る。

VVELの動作モデルを手に語る池田 伸

すでに仕様決定していて開発が進んでいるにも関わらず、急な仕様変更というのが幾度かありました。

日産を代表するスカイラインという車種の重み、高まる周囲からの期待。
それがゆえに、なにごとも寸前まで妥協は許されなかった。
妥協なきこだわりの結果として挙げられるのが、排気量だ。

大前提として、“スカイラインに相応しい性能”を追い求めなければならない。
しかしながら、環境性能を犠牲にするわけにはいきません。
その微妙なバランスをとるための葛藤を解決したのが、バルブ作動角とリフト量を連続可変させるシステム、VVELなんです。
VVELを採用することで、パワーと環境性能を両立させることができるようになりました。
両立の為の最適なポイントが、3.7リッターだったんですよ。

VVELがVQ37VHRエンジンにもたらしたのは、エンジンパワーの向上だけではない。

搭載による具体的なメリットとして、
【1】応答性に優れたレスポンス
【2】高出力・高トルク
【3】燃費の向上
【4】排出ガスのクリーン化
という4つが挙げられた。

パワーと燃費といったどれかひとつではなく、相反する4つの性能をトータルで向上させることができるのがVVELの特長です。

開発段階でも、テストドライバーたちの反応は“このエンジンレスポンスは素晴らしいね!”と評判が良かった。
ここまでは順風満帆な開発の末、VVELがスカイライン クーペに搭載されたかのように思える。
しかし、開発模様をさらに紐解いていくとそこには、独自の機構技術の追求にまい進する開発陣のこだわりがあった。
そもそもVQ37VHRエンジンはスカイライン(セダン)に搭載され、高い評価を得ているVQ35HRエンジンをベースに、約35%の部品を新規開発して誕生した。
代々、賞を受賞しているVQエンジンをベースにしていることで、開発のほうも比較的に順調に進行していった。
そのなかでも、新規開発となるVVEL技術はメインを占めることとなった。
吸気バルブの作動角とリフト量を、アクセル開度や走行状況に応じて連続可変させようという新機構である。
画期的な新機構であるだけにVQ37VHRエンジン開発は苦労が尽きなかった。

はじめは試作エンジンが狙い通りに動かないこともありました。
主な原因はバルブリフト量による空気量制御の難しさでした。
これらの見直しは失敗しては新たな設計を試すということが繰り返し行われました。
とにかくスムーズなバルブ制御は最後まで追求し続けました。
バルブ作動角やリフト量の可変制御に伴うエンジンの変動ショックをなくし、アクセルレスポンスを高めることが難しかった。

そんな苦闘とトライ&エラーを繰り返した賜物がVVELだが、ドライバビリティの面で、特に重視したことはなんだったのだろう。

それはトルクカーブ(トルクの出力発生曲線)の全域を向上させることです。
中でも低中速域を大幅に向上させた結果として、トルクカーブはフラットな形になりました。
低中速域のトルク向上により、発進、再加速など、どこの回転域からでも余裕のある力強い加速が可能になります。
高回転 側の向上と合わせて、低回転から高回転まで伸びのある加速感の持続が実現したんです。

事実、スカイライン クーペのVQ37VHRエンジンでは、最大トルク(37.0kgm)の90%が2400回転から7000回転の間で発生する。
これにより、どこの回転域からでもレスポンス良く力強い加速を得られるのである。
それは言い換えれば、ストレスのない乗りやすさにも結びつく。

VVELでは、カムの戻り機構をスプリングではなく、リンクを介した強制駆動としています。
これは、スプリングの伸縮タイムラグがない分、高回転対応に適しているんです。
VQ37VHR は7500回転まで、伸びやかに気持ちよく吹け上がりますよ。

VVEL搭載VQ37VHRエンジンの動作モデル

池田によると、これら「VVEL」の特長は一般のドライバーにもすぐさま分かるものだと言う。

低・中速トルクの力強さは発進してすぐに分かると思いますよ。
とにかくまずは乗ってみてほしいです。
VVELの機構を理解頂くのは正直難しいかもしれませんが、アクセルペダルに呼応したレスポンスの良さ、どこからでも力強く、気持ちの良い加速感は誰でも体感できるものですから。

そう説明する池田の表情には自信があふれた。
「VVEL」は、スカイライン クーペに搭載するために、エンジン部門一丸となって傾けられた、情熱の結晶なのである。

※この記事は、SKYLINE BLOGで2008年1月25日に掲載されたものを編集しています。