岡山国際サーキット

雨はエキサイティング。

決勝当日は昼前から降り出した雨が本降りになり、決勝レース前には「ウェット宣言」が出された。そこから、レース直前の慌ただしい時間のなかでレインタイヤ換装のための調整が始まった。忙しく動き回るスタッフの間で、初めてのピット体験を雨のコンディションで迎えた私は、ただ呆然とするばかり。ドライバーを交えてタイヤタイプの選択、マシンのセッティング変更、測定、調整・・・やらねばならないことは山積みで、それらを各スタッフが連携プレーでテキパキとこなしていく。ファクトリーでの事前車両整備の時、作業性の早さと正確さに驚いたのだが、そのスキルはまさにこんな状況のためにあるのだと思った。
初めての体験にとまどいながらも、タイヤの脱着を担当させてもらった時は感激した。
テレビのレース中継で「雨の日のセッティングに変更」というシーンがたまにあるけれど、今まさにそのシチュエーションを本物のピットで体験している自分に、ちょっと興奮してしまった。

勝つための整備に学ぶ。

レース車両の整備はまず安全を第一とし、その先に「勝利するための整備」がある。それは一般車の整備とはやや異なるが、基本に忠実で作業効率を極限まで高める点において、学ぶべきことがたくさんあった。
初日から2日間、ファクトリーでの事前整備があり、パーツの交換や点検の方法を確認した。そこでブレーキパッドの交換作業を行ったのだが、各パッドの取付け箇所に番号がきちんと振られていた。速やかに正しく装着するためのきめ細かい工夫に感心した。
その後サーキットへ移動してからも、いたるところでレースならではの流儀に出会った。ホイール脱着用のインパクトレンチは、回転方向が異なる2対が用意されている。車両ピットインの際、逆ネジになっている車体左側ホイールの脱着を同時に行うためだ。
サーキットでは、車両整備を短時間で正確に行う数多くのノウハウに触れることができた。すべてが一般車両に当てはまるとは言えないが、参考になることが多いと実感した。

何度でもチャレンジしたくなる。

長いようで短い、夢中で過ごした一週間だった。国内最高峰のレースに、メカニックとして参加するというワクワクする体験。その第1日目は、ファクトリーでの事前整備作業から始まった。ここで、レース車両の基本的な整備について講義を受ける。基本を改めて学び直せる貴重な体験となった。
事前整備の2日間が過ぎて、いよいよサーキット入り。ピットの設営からスタッフ一丸となって取り組み、予選、そして決勝へ。緊張感は日ごとに高まっていく。
決勝は激しい雨で大荒れのレースとなった。ピットの中は終始慌ただしく、こちらもチームの方の指示を聞き逃すまいと必死だ。微力ながらも、車両調整のサポートができたのがうれしい。レースは2度目の赤旗で終了となり、我々のマシンは5位でフィニッシュした。
サーキット初体験の自分には濃厚過ぎた最終日。でも、おだやかに終わるよりも満足感は大きい。この刺激的な体験はやみつきになる。チャンスがあれば、ぜひもう一度参加したいと思った。

たくさんの特別な出会い。

「レース車両を整備する。」その特別な経験がきっと日々の業務にも活かせると思い、プロジェクトへの参加を希望した。一番の収穫は、通常の業務で得られない知識や発想に出会えたことだと思う。
サーキットに入る前の2日間、事前準備としてファクトリーでレース車両整備のレクチャーが行われた。ここで、ウェイトの取付け、スタビライザーロッドの取付け、高精度のアライメント調整など、レース車両ならではの整備ノウハウを学ぶ。技術だけではなく、トルク管理の重要性、レース結果へのこだわり、チームワークの重要性など、普段の業務にも参考になる話を聞くことができた。
サーキット入りしてからは、主にタイヤマネージメントを手伝わせてもらった。たくさんの知識やコツを教えてくれたスタッフの方たちには、感謝の気持ちでいっぱいだ。普段出会えないレース関係の方たちとのコミュニケーションは、とても良い経験になったと感じている。

GT-Rがますます面白くなってきた。

サーキット入り前の事前準備作業では、主に足回りの調整作業を体験した。
普段の仕事で、GTRはよく扱うのだがやはりレース車両の現場作業はちょっと勝手が違う。たとえばショックの取り付けは、しっかりと車重をかけて行わなければいけない。そのために、地面に接地させての作業が重要なのだが、これが結構手間がかかる。しかしレース現場ではこれを素早く確実に実行する。そのやや面倒な作業をまさしく“鍛えられた”スピードで、魔法のようにすすめていくのだ。
アライメント調整でも、求められる精度が一味も二味も違った。職場に戻ってアライメント調整を行う時には、左右の差を極限まで減らす調整を心がけるつもりだ。
職場ではGT-Rにお乗りのお客さまも多く、整備へのこだわりも強い。今回の体験を、ぜひお客さまに伝えたい。GT-Rを整備することが、ますます楽しみになってきた。

こだわりと誇りと責任と。

日産メカニックチャレンジに参加して、もっとも刺激を受けたのは、車両整備に取り組む真剣な姿勢だ。一般車両もレース車両も、どちらも人の命がかかっているという点は同じ。レース車両ではそこに「勝つために」というファクターが加わってくる。
メカニックとしての作業で違いを感じたのは、レース車両の整備性の良さに加えて、作業の早さと正確さ、そして入念なチェックだ。どんな作業でもダブルチェックによりミスを防止。さらに、作業性を高めるための手順や工具の置き場所まで、様々な工夫を重ねている。
サーキットに入ってからは、タイヤメンテナンスを担当させていただいた。空気圧ひとつでも、その日の気温、陽当たりなどにより、コンマ1桁までシビアに調整する。さらに、決勝2日前から当日の荒天を予測し、レインタイヤ装着の下準備も行った。
車両整備への徹底したこだわりと、誇りと責任感。これは、普段の業務でも心がけて実践していきたいものだと思った。