KAZE
Text by Kenta Tsushima
# 1
PJS Logo LMIP '97
Issued: 7.June.1997
Le Mans Internet Project '97
1997 Le Mans Internet Project
PJS Logo
6月7日(SAT)

 97年ルマン24時間レースを控えたサルテサーキットは、静かな時を刻んでいる。
 ミュルサンヌの森に潜むという魔物が、1年の眠りから覚めるにはもう少し時間がかかるようだ。
 ミュルサンヌからインディアナポリスへ、そしてポルシェカーヴ。時速100km/hにも満たない速度の乗用車など、魔物にはお呼びでないらしい。我々を乗せた車はそれでもタイヤをきしませながら、想像以上にきついコーナーをまがり、サルテサーキットに滑り込んだ。
 静かなパドックの片隅で、NISSAN、ポルシェ、チームBMWのトランスポーターだけが、長い旅を終えて息を切らしている。時間に厳しい(神経質の?)日本、ドイツチームが演じた最初のトップ争いは,かつて全日本ツーリングカー選手権でユニークなピットクルーが「一番」と染め抜かれたハチマキで参戦しBMW(シュニッツァー)ではなく、昨年のICHIBAN(NO.1)、ポルシェでもなかった。

PHOTO-M
Photo by Yoshihiro Shinomiya
 昨年のウイニングマシンTWR WSCポルシェを製作したトム・ウォーキンショウのあらたなるル・マン・プロジェクト、ニッサンR390GT1がゆっくりとトランスポーターからその姿をあらわし、どこのチームよりも早くガレージ収められたのは、まだ陽も高い午後5時の事だった。
 予備予選でトップタイムをマークしたニッサンR390GT1の新たな姿は、(予備予選時の)漆黒のボディから赤と黒をベースに塗替えられ、まさにICHIBANにサルテの住人となったのだ。
 だからと言って何の意味もない事は言うまでもない。しかし、意味があろうとなかろうと、ニッサンの疲れを知らない行動は、ル・マンの始まりを告げるのに十分だったようだ。早々とニッサンのシャッターが閉められた途端、チームBMWは(それまではトランスポーターの中で休憩していたにもかかわらず)一刻を争うかのごとく、ガレージのレイアウトを作り始め、その作業は深夜にまで及んだ。予選まで3日あるこの段階で、頑張りすぎ?の光景は、異様とも思える。事実、翌早朝の彼等のガレージにはマクラーレンBMWF1GTRが整然と収められ、TWRのスタッフが我々と同じホテルで朝食を取っている頃には、サーキットのパドックで歯を磨いていたのだから。日没の夜10時近くになった頃、ル・マンに風が吹き始め、黒い雲が流されて来た。雷鳴とともに激しい雨がミュルサンヌの森に叩き付ける。わずか数キロかとも思える暗黒の雲は、ここサルテサーキットだけを暗く包みその周囲には夕陽が降り注いでいる。
 すべての風はル・マンへ。
 ミュルサンヌの森の魔物たちも目を覚ましたようだ。


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